メールマガジン

デジタルが得意な歯科領域について

みなさん、こんにちは。三軒茶屋マルオ歯科院長の丸尾勝一郎です。前回のメルマガでは「歯科におけるデジタルの意義」について述べさせていただきました。今回は、前回の続きとして「デジタルが得意な歯科領域」についてお話したいと思います。

まずは、私の専門領域でもあるインプラント治療。これはデジタルとの相性が歯科領域の中でも抜群に良いと言えるでしょう。理由は、歯科領域でも数少ない規格化された材料(インプラント)を用いるからです。すなわち、インプラントのデジタルモデルを作成することが容易であるため、コンビームCTや口腔内スキャナによってデジタル化された生体情報に、規格化したデジタルモデルを簡単に融合することができるわけです。結果として、非常に単純化されたワークフローで完結するというのが、大きな利点です。
 
それでは具体的に見ていきましょう。インプラント治療では、外科的および補綴的側面の両場面において、デジタルの恩恵を多く享受します。

外科的側面においては、口腔内スキャナから得られたサーフェスデータからバーチャルワックスアップ行い、CBCTから得られたボリュームデータを重ね合わせることで、補綴主導的にインプラントの埋入位置をシミュレーションすることが可能です。その上、バーチャルワックスアップしたデータをそのまま即時プロビジョナルとして加工したり、シミュレーション通りに埋入するためのサージカルガイドのデザイン・製作したりすることが可能となりました。これらは、インプラントの直径・長径が規格化されていることでシミュレーションがより容易におこなえるわけです。例えば自家歯牙移植などの場合、移植歯はそれぞれ固有の形態・大きさをしているため、簡単にシミュレーションすることはできないですよね。

一方、補綴的側面はどうでしょうか?補綴も同様に規格化されているもの(今度はインプラントのプラットフォーム)がどのような3次元的位置関係にあるかを把握できれば、上部構造の製作が可能となります。それを知る手がかりとして、スキャンボディと呼ばれる印象コーピングをインプラントに装着し、口腔内スキャナで光学印象を行います。スキャンボディの形態から逆算したインプラントの位置が決定すれば、あとは規格化されたアバットメントを選択し、上部構造のデザイン・加工(いわゆるCAD/CAM)を行うだけです。天然歯と決定的に異なる点は、「マージンの設定が不要である」という点ですね。天然歯のクラウンを作る場合は、フィニッシュラインを最終的に人間が決定しなければいけません(ある程度はコンピュータが判断してくれるソフトもありますが)。デジタルデータになっているおかげで、模型と違ってかなりの拡大視野で作業をおこなうことができますが、手間であることは間違いありません。一方で、インプラントにはこの作業はありませんので、場合によっては天然歯のクラウンのデザインよりも作業時間が短いということが起こり得るわけです。

また、天然歯の場合は、縁下0.5mmを超えるマージンでは光学印象の適応外となりますが、インプラントの場合、スキャンボディさえ読めれば問題ないので、インプラントのプラットフォームの位置が縁下であっても口腔内スキャナによる印象採得が可能となります。

このようにみても、インプラント治療においては、天然歯の移植や固定性修復よりもデジタルの恩恵を受けるということがいえるのではないでしょうか。

では、インプラント以外にデジタルの恩恵を受ける歯科の領域はなんだと思いますか?

2つ目の領域は矯正です。矯正も分析と治療計画という2つの側面において、デジタルの恩恵を大きく受ける領域と言えるでしょう。

矯正治療は他の歯科治療と比較し、分析と治療計画に多く時間が費やされます。私たちが大学で学んだ従来の分析方法では、セファロの上に紙を引いてトレーシングし、それぞれの解剖学的ランドマークをプロットし、角度や距離を“測定”していました。でもよく考えると、この“測定・計算”こそ、コンピュータの得意技だと思いませんか?現在では様々な矯正分析用のソフトウェアが開発されており、撮影したセファロやCT上にランドマークの位置をプロットすれば、全て必要な計算を瞬時におこなってくれます。将来的にはAIが自動的にランドマークを判断し、データをインポートするだけで分析完了、なんて日が来るかもしれません。また、模型分析の代わりに、口腔内スキャナで得られたサーフェスデータ上で歯牙の幅径や歯列弓の大きさなども測定することが可能です。これら数値化するというコンピュータの得意技を生かすために、生体情報をできるだけ早い段階でデジタル化できることは非常に大きなメリットであり、それは口腔内スキャナとCTによって可能となったわけです。

では今度は治療計画に目を向けてみましょう。矯正治療はブラケット矯正とアライナー矯正に大別できますが、現在ではどちらもソフトウェア上での治療計画の立案が可能です。どちらも、どのようにトルクをかけるとどのように動くのか、タイポドントのようなシミュレーションが可能ですので、様々なオプションを試すことが可能です。

ブラケット矯正ではブラケットの位置を口腔内で示してくれるガイドテンプレートを製作することも可能です。(あまり使っている先生を見たことはありませんが。。)また、最近では舌側矯正に関しても、シミュレーションソフトウェアあるようですが、私の知る限りブラケット矯正でシミュレーションソフトを使用している矯正はまだまだ少数であるように感じます。おそらく、経験豊富な矯正科医にとって、経験豊富な外科医がサージカルガイドを必要としないように、シミュレーションソフトはそこまで必要としないのかもしれません。

一方で、アライナー矯正では、歯面に接着するアタッチメントのデザインや矯正シミュレーションが可能であり、iTeroという口腔内スキャナを用いれば、スキャンしたその場で術前から術後のシミュレーションを動画で見ることが可能です。さらに、スキャンデータを送ると、治療計画をある程度立案した状態でデータが返ってきます。これをチェックし、問題なければマウスピースを作成し患者さんに渡すだけなので、今まで分析や治療計画にかけていた時間が大幅に短縮されます。しかしながら、これにより矯正専門医ではない一般歯科医師も矯正治療をおこなうようになることが予想されるため、不適切な治療計画によるトラブルの発生も予想されますので、注意が必要ですね。

今回は、「デジタルが得意な歯科領域」として、インプラント治療と矯正治療についてお話しました。次回は、「デジタルが苦手な歯科領域」についてお話したいと思います。

<編集後記>
三軒茶屋マルオ歯科とd2dが開催しております「歯科2.0セミナー」ですが、おかげさまで東京・大阪にて大変好評を頂きました。ありがとうございました。その結果、なんと!え日本全国ツアーが決定いたしまして、福岡・新潟・岩手・広島・鹿児島・札幌・金沢・名古屋で開催することとなりました。中には、「ぜひ地元でも開催して欲しい」というリクエストで実現した都市もあります。嬉しい限りです。本セミナーでは、単に“デジタルを使った臨床”に終始するのではなく、これからの歯科界の将来展望から逆算し、「どのようなビジネスモデルを再構築するべきなのか?」という視点で、お話をさせて頂いております。どんな業界でも顧客の動向や革新的なテクノロジーによって、ビジネスモデルが絶えず変化しています。医療も決して例外ではなく、今後患者のニーズ・疾病構造・デジタル機器の進歩によって、保険治療に頼った従来のビジネスモデルが通用しなくなる時代が来るはずです。それに備えて、デジタルを含めたリテラシーを高めていただくのが、本セミナーの目的でもあります。各都市で、できるだけ多くの方に参加していただけるのを楽しみにしております。

セ┃ミ┃ナ┃—┃情┃報┃
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福岡:2019年6月16日(日)つきやま歯科 専門医療センター天神
新潟:2019年6月23日(日)NEXT21 サービスセンター
岩手:2019年7月21日(日)マリオス183会議室
広島:2019年8月18日(日)RCC文化センター602会議室
鹿児島:2019年9月1日(日)サンプラザ天文館E-5
札幌:2019年10月20日(日)TKP札幌駅南口カンファレンスセンター ミーティングルーム3B
金沢:2019年11月4日(月祝)地場産業振興センター第8会議室
名古屋:2019年12月15日(日)安保ホール101号室

申し込みは下記URLよりご応募下さい
https://www.d2d-seminar.com/

D.┃M.┃R.┃研┃究┃所┃
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第2回目:7月18日(木)20時〜@大崎(TUNNEL TOKYO)https://tunnel-tokyo.jp/Home

d┃2┃d┃所┃属┃タ┃レ┃ン┃ト┃
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9月2日(月)リリース予定

そ┃の┃他┃情┃報┃
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歯科医師と歯科技工士を繋ぐクラウドソーシングサービス(STRING)開発中